「そうか、なら良いが…無理はするなよ?」
「分かってるよ」
いつの間にか修行をしていたギンタとジャックも戻っていた。
賑やかさが増し、はその様子に笑みを浮かべた。
それと同時に思う。
この賑やかさを壊してみたい、と。
「アルヴィス、そちらのお嬢さんは?」
「……"三番目の男"…ガイラ、さん」
声をかけてきたのはガイラ。
彼と今のは面識はないことになっているために、"さん"を途切れてつけた。
勿論前回のウォーゲームで顔を合わせている。
が、気付いていないらしい。
「ウォーゲームを見に来てるです、よろしく」
「…?」
「名前が同じなだけで、ガイラさんが思い浮かべた女とは別人ですよ」
彼女の名前を聞くと、笑みを浮かべていたガイラは目を細めてを見た。
それに気付いたアルヴィスが慌てて言った。
彼のその言葉を信じるのか、ガイラは一つ頷いた。
「そうか。これは失礼した。ガイラだ、宜しく頼む」
「いえ、気にしないで下さい」
「ところで、ガイラさん。やはり貴方が2人を連れて行っていたのですね。どうでしたか?」
「うむ。なかなか育てるのが面白いぞ、あいつら。見よ、アルヴィスに」
ガイラはしゃがみ、足元に転がっていた石を拾った。
何をするのかと見ていれば、それを力いっぱい二人の方に投げる。
しかし、それが。
二人に直撃することはなかった。
「何すんだよ、このクソジジイ!!」
「ギャース!!手がーっ手がーっ」
「まぁ、こんなところだ」
格好つけて手で石を壊してみせたジャックは痛みに転がりまわる。
その様子に苦笑いを浮かべ、そっと隣のアルヴィスを盗み見た。
すると彼はただ目を見開いて信じられないといった様子。
実際に魔力を通わせていない石の気配を読むことは難しい。
それをこの短時間でやってのけたのだ。
しかし、それもにとってはただの子供遊びのようなもので。
彼女の出生からすれば、幼い子供でさえ出来て当然の芸当なのだ。
けれどそれは口にはしない。
「こいつらバカ二人だけではなーいっ!!ワシだってパワーアップしたのだ!!」
「バッボさんも修行してたの?」
「ワシはスゴい男だから修行などせん!これを見なさい、スノウちゃん」
以前のバッボとは全く違う様子に、は目を瞬かせた。
今のように陽気に話すようなARMではなかった。
求めるのは鮮血と殺戮と、狂気。
正反対のバッボに、寧ろ笑みすら零れる。
「どんな力、創造したの?」
膝を折り、スノウに勿体づけるバッボに笑みを浮かべて問うてみる。
するとバッボは目を瞬かせ、の顔を凝視する。
今のバッボは全くを覚えていないはずである。
顔を変えているのだから尚の事。
「美しいお嬢さん…お名前は?」
「ですよ、バッボですよね?」
分かりきっていることを聞くと、彼は格好づけたように気取って言う。
その様子には笑みを浮かべた。
「名前まで美しい!!どうですか、私がこの辺りをご案内しますが」
「なーに言ってんだっバッボ!が困ってんだろ!!」
「――ギンタ」
彼が戦いと望む男。
もしかしたら彼女から彼を奪うかもしれない、男。
「腹減ってねぇか?」
「え…?」
「俺、修行してて腹減っててさ。飯、良かったら俺らと食わねぇか?」
予想外の誘い。
どうしようかとは視線をさ迷わせ考える。
考えることでもないか、と。
そう思うと、は笑みを浮かべて頷いた。
「それじゃご一緒しようかな」
「うむ!では、私が」
「バッボ、煩い」
「何じゃとー!?人がせっかく決めようとしているところを煩いだと!?」
しかしそこに拍手の音。
それによってギンタとバッボの口論は終わらせられる。
「2NDバトルの勝利、おめでとうございます!
それでは早速ですが――明日の3RDバトルの人数とフィールドを決定させて頂きます」
ポンズの言葉にレギンレイヴの姫はサイコロを振るった。
それが地の落ち、転がる。
出た目は。
「5vs5!!火山群フィールド!」
「火山?」
「それよか酒くれぇーっワシはもう疲れたぁーっ」
「まぁまぁバッボさん、後で山ほど飲めるんだから」
は苦笑いを浮かべる。
あれだけ鮮血を愛し、殺戮を恋い慕っていたあのバッボと今目の前にいるバッボの
ギャップに違いに、ただただ笑みが零れる。
そしてふとよく知る気配にはその方向を見る。
「あの…み、見事な戦い…でした!あ、明日はよ、よろしくお願いします…」
「…誰?」
声をかけてきたのはのよく知る人物。
けれど他の面々はそのことも知らなければ、彼自身のことも知らない。
ジャックに真顔で聞かれ、彼は慌てる。
そんなところは本当に変わらない、と。
は苦笑する。
「わ、わぁっスミマセン!!名前も名乗らず出てて来てしまって、す、すみません!!
ボクはチェスの兵隊のロランと申します。あ、明日のバトルに出ると思いますのでご挨拶に…」
ぺこりと小さく頭を下げ、笑う彼はチェスの人間には見えない。
どこまでも丁寧なロランには笑みを浮かべていた。
彼を拾ったときのことは、よく覚えている。
ロランは気付いているのだろうか。
ふと、そう思った矢先。
目が合う。
「…か、可愛いですね!」
「は…?」
は彼の一言に目を瞬かせた。
しかしそんな彼女を気にせず、ロランはぎゅっとの手を握った。
まさかの展開にその場にいた全員が驚いている。
ロランは気付いていないのだろうか。
ほんの一瞬、抑えていた魔力をARMに注いだ。
微弱のそれに気付いた者はいないようだった。
ディメンションARM "以心伝心"
それはその名の通り、口には出さず直接相手の脳に考えていることを伝えられるのだ。
は引きつった笑みを浮かべながら、ロランに"言う"。
『気付いてないの?』
『いえ、気付いてましたよ』
返事はすぐに返って来た。
そして彼の表情は変わらず、ただ笑みを浮かべての手を握っている。
『だったら、どうして?』
『さんに"以心伝心"を使ってもらうためですよ。ファントムからの伝言がありまして』
『ファントムから?』
「ちょっと…離してよ」
「す、スミマセン!!つい、」
『アパルトポートでまだ騒いでる人たちがいるようで、それを黙らせて来て欲しいと』
それならば普通はに頼まず、ポーン兵を行かせるだろうに。
けれど、彼は気付いたのだろう。
飛び散る鮮血に熱を抱いた彼女を。
『そう…有難う』
『いえ。それでは、失礼します』
「そ、それでわ失礼します!!」
ロランは慌てての手を離すと走り出した。
その後姿はまるでそうだとは思えない。
彼がナイト級の人間だとは、到底。
「ったく、何だったんだ?」
「大丈夫か?」
「え…あぁ、うん。大丈夫だけど」
心なしかアルヴィスは顔を顰めていた。
はそんな彼を見て首を傾げる。
どうして顔を顰めているのか、と。
「よーし!それじゃ飯に、」
「ギンタ、ごめんね。用事あるの忘れてた」
は両手を顔の前で合わせて申し訳なさそうに言う。
するとギンタは残念そうな顔をした。
「それじゃ仕方ねぇな。けど、次は絶対だからな!」
「うん、次はね」
次があるとは、限らないけれど。
ついにウォーゲームにナイト級が出るのだ。
もしかしたら次に会うときは、誰かが欠けているかもしれない。
それを何故か。
寂しく思う、自分がいた。
は笑みを浮かべ手を振ると、小走りでレギンレイヴ城の城門の方に向かう。
そして完全にギンタたちの目の届かない場所に着くと、そっと顔に触れた。
一瞬の後。
その場にいたのは紅がかった銀髪の、。
は"アンダータ"を発動させ、そしてアパルトポートに向かった。
冷めぬ熱を、たぎらせて。
たぎる熱を、冷ますために。
冷めぬ熱を冷ますため
(けれど、それは一度灼熱に)
2006.3.10
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